揺れる自民党額賀派(平成研究会)【自民党派閥あれこれ】
民進党をはじめ野党に全く元気がない現在、政党間による権力争いではなく、自民党内の派閥間で、政権をねらう動きが活発化している。
今一番活発に動いているのが麻生太郎副総理兼財務大臣(衆12期・福岡4区)率いる麻生派(為公会)だ。今年2月に甘利明衆議院議員ら5人を迎え入れたのをはじめ、同じ宮澤派→加藤派からの流れを持つ岸田派(岸田文雄外務大臣が会長)に合流のアプローチしている。一連の拡大活動は自民党の最大派閥細田派(安倍首相の出身派閥)に対抗する狙いがあるという。一部報道では麻生副総理は岸田派と合流して、細田派出身の安倍さんと共に「二大派閥のオーナー」として総理を決める地位(キングメーカー)を狙っている、ともされている*1。
自民党内の派閥で勢いがあるのが現職の総理を擁する最大派閥の細田派と、前述の麻生派だとすると、逆に落ち目は石原派、谷垣グループ、そして額賀派だろう。石原派は今年2月に派閥事務総長の平沢勝栄衆議院議員(7期・東京17区)が脱退し、谷垣グループは会長の谷垣禎一衆議院議員(12期・京都5区)が昨年自転車事故で入院すると、政府・党のポストが回ってこなくなり、今年3月に入って幹部の佐藤勉衆議院議員(7期・栃木4区)ら数人が麻生派に合流すると報じられた。
額賀派は現在深刻な内紛を抱えている。報道等によると、現会長の額賀福志郎衆議院議員(11期・茨城2区)の求心力のなさから、かつて参院のドンといわれ今でも力を持つ派閥OBの青木幹雄元参議院議員が、会長の座を竹下亘衆議院議員(6期・島根2区)に継がせたいと動き、一方の額賀会長は、それを阻止すべく派閥では外様ながら力のある茂木敏充衆議院議員(8期・栃木5区)に次期会長をチラつかせて延命を図っているという。
人間関係的にいえば、もともと額賀派は田中派から竹下登氏らが分離独立したグループで、時期会長と目される竹下亘氏は創業者の竹下登氏の弟であり、それをバックアップする有力OBの青木氏は竹下登氏の秘書・地元県議として30年以上にわたり仕えていた。青木氏としては派閥(平成研)は「竹下派」だという強い思いがあるのだろう。
一方、現会長の額賀氏が頼りにする茂木氏はマッキンゼーから日本新党で政界入りし、自民入党後は経産大臣、党政調会長、党選対委員長と重量級のポストを歴任している。地元での選挙も強く、集金力もあり、安倍総理の信任も厚いが*2、とにかく毀誉褒貶(きよほうへん)のある人物で、「切れ者」と評判のある一方、記者や党職員・秘書をすぐ怒鳴る、下に厳しい、「徳がない」とも言われている。実績・能力共に派閥会長として十分ではあるが人柄に問題が……といったところだろうか。
額賀派の力の源泉は参院のドンと言われたOBの青木氏にみられるよう、参議院にあり、現在も自民党参議院幹事長という実務を取り仕切るトップや、幹事長代行、国対委員長代行といった最前線の責任者も額賀派のポストになっている。茂木氏が会長になれば参議院のメンバーは派閥から離脱する*3と吉田博美参院幹事長(参3期・長野選挙区)が茂木氏に宣言したともいわれており、額賀会長・茂木氏陣営は苦戦気味だ。
ここにきて今日の産経新聞に、額賀派内で石破茂氏(衆10期・鳥取1区、石破派)との連携案が浮上しているという話*4がでてる。これは青木・竹下陣営としてはなかなか妙案で、ポスト安倍として石破氏を応援し、その次の総理候補として小渕優子氏(衆6期・群馬5区)を育てるというプランだ。派閥内を見渡すとポスト安倍になりうる人物は茂木氏しかいないが、それをパスして小渕優子氏の世代に飛ばすことができる。
さて、茂木氏も極めて有能な人物であるから黙ってみているわけではないだろう。政局ウォッチャーとしては巻き返しのアクションに期待したい。
(参考)
与野党国会議員で薬物疑惑報道
日刊ゲンダイで自民党の有力議員に覚醒剤疑惑が報じられ、つづいて東スポで野党議員の大麻吸引疑惑がでた(下部にリンクあり)。こうしてポンポンと立て続けに議員の薬物報道がでるのも珍しい。
議員と薬物関連では、中国で覚醒剤を所持しているとして拘束された愛知県の稲沢市議や、横浜で逮捕された神奈川県の葉山町議がいる。国会議員では2005年に旧民主党の小林憲司氏(逮捕時落選中、愛知7区・当選2回)が覚醒剤で秘書もろとも逮捕されているが、逮捕時は落選中でタダの人であった。落選した1週間後に逮捕されているから、現職の国会議員を薬物で挙げるのは難しいのかもしれない*1。
国会議員は会期中の不逮捕特権があるが、葉山町議のような現行犯の場合は普通に逮捕される。以前、六本木で女性に抱き着いて現行犯逮捕された自民党の中西一善衆議院議員(2005年当時。当選1回・東京4区)は夜更けの取調室で「私には不逮捕特権がある」とすごんだとか、すごまなかったとか。
とにかく政治家や政党は新聞の「社会面」に載ると大打撃を受ける。これは森友の話も同様だが、日頃、手なずけている政治部の記者であれば政治家に対しての手心もあるだろうが、社会面を担当するのは「一度限りの関係」である社会部の記者やワイドショー記者で、彼らは政治家に遠慮がない。現段階ではタダの与太話に過ぎないが、本当に逮捕されるようなことがあれば、それなりの政局になる可能性がある。補選にはなるだろうし。
(参考)
森友学園の問題は空気を読むことに長けた役人の物語だった。
恥ずかしながらこの一連の騒動で「忖度(そんたく)」という言葉を初めて知った。今年の流行語大賞も狙えるだろう。委員には是非この気持ちを忖度してほしい。
さて先週の森友学園の籠池理事長の証人喚問から時間がたった。問題の舞台は経産省から総理夫人付きとして出向していた谷査恵子氏の存在に移っている。
鴻池議員が「コンニャクがー」とか言ってた時にはよくわからない話だったが、ぼんやりと話の筋が見えてきたように思う。ポイントは2つある。
一つは安倍昭恵総理夫人の周辺が動いていたということだ。
- 森友学園の要望を総理夫人が(物理的に耳から)聞いた
- 総理夫人付きの役人が進捗状況を照会した
この2つは事実だ。そこからはそれぞれがついているポジションで都合のいいように行間を読む世界だ。野党からすれば、「総理夫人付き」の職員が私的にかつ事務的に照会をするわけがない、総理・総理夫人の意向を盾に上の方で話をつけたんだと言っているし、逆に総理を守りたい自民党からすれば、事務的に照会したんだとタテマエしか言わない。
しかしここにきて「安倍昭恵さんは私人で、総理夫人付きの職員も私的に森友学園に同行し、私的に関連部署に照会して、FAXも谷さんが私的に送信して保管していた」という政府側の話の整合性はかなり苦しくなっているように思う。ただ、あくまで「整合性」の話はである。ディベートのような論理ゲームなら整合性が崩れた時点で負けだが、政局ゲームの勝敗は国民がどう思うかだ。
もう一つは取得した土地の話だ。当初は格安に値下げをされた、という報道であったが、だんだんと土地の値段はまあ相場通りだったんじゃないか、財務省としても価値のない土地を処分したかったというような背景がみえてきた。
この森友学園の問題は、当初は、政治家が強い意向を働かせて、無理やり土地を値下げしたり、手続きを捻じ曲げたりして便宜を図ったという疑惑だった。しかしここにきて見えてきたのは、意図的に便宜を図ったのではなく、総理夫人からの問合わせについて、役所側が過剰反応してこれは「総理案件」だから下手に騒がず進めようというものだったのかと思う。役所の中でも要望に対して空気を読んで話を進めることがあると聞く。森友学園の事案は忖度が過剰に働いた、あるいはアッキーにそんな気持ちはないのに役所が勝手に空気を読んで進めてしまった、というもののように考えている。
森友学園、問題の行方はワイドショーが決める
森友学園の籠池理事長の国会での証人喚問がおわった。印象としては籠池理事長は質問に対してオドオドすることなく、ハキハキと答えていた。プレゼンテーションの効果なのか、何度も何度も「安倍昭恵夫人から100万円の寄付をいただいた」と堂々と証言されると、こちらまで、あれ、寄付は本当なのかな、もしかするとアッキーがウソついてんのかな、と思ってくるから不思議だ。証人喚問後に昭恵夫人がfacebookで寄付金について「その旨の記憶がない」という表現で否定しているのも引っかかる。なんで、もっと強い表現で否定しないのだろうか。
結局のところ、籠池証言によって今後については3つの方向が固まった。
1について、今日の喚問では自民党はなんとしても維新(大阪府)への責任追及に誘導したいんだな、と思うような内容だった。午前中トップバッターの自民・西田昌司参議院議員(2期・京都、無派閥)は「問題の本質は、資金が足りないのに小学校建設を認めた大阪府の対応」と問題のすり替えをしていた。どう考えてもこの問題の核心は「土地取得について政治家の関与があったかどうか」だ。ただ、あれだけ松井知事の名前が出てくる以上、舞台は大阪府の対応に移るかもしれない。
一方の野党は昭恵夫人と籠池理事長との発言の整合性を攻めてくるだろう。100万円の寄付はそれ自体は問題にもならないくらいの小さな話だが、「小学校の建設に私か妻がかかわったのなら、議員も総理もやめる」といった安倍総理の発言と、偽証も問われる証人喚問という重い場で証言した籠池理事長の発言に対して、昭恵夫人はfacebookだけでいいのか、という話にもなるだろう。
3については早くもコメントで事実を否定したし、スルーされそうな感じ。確かに柳本卓治参議院議員(1期・衆6回、二階派)といっても誰?という感じで燃え上がらなそうだ。
最近炎上している森友学園と豊洲の問題は、ニュース番組ではなく、ワイドショーで取り上げられて燃え広がっている。昨日の証人喚問を受けての反応も、新聞や21時-23時代の報道番組ではなく、むしろ朝昼のワイドショーの報道のされ方で今後の行方が決まる。
石原宏高議員、コンビニの朝飯まで政治資金計上
政局でももはや何でもないが、今日発売の週刊文春に石原宏高衆議院議員(3期・東京3区、石原派)が朝にコンビニで買うパンやコーヒーの代金を、自身が代表者である自民党支部で計上をしているという記事がでている。豊洲の問題がなければ石原慎太郎氏も着目されず、親父が目立たなければ石原宏高氏なんか調べないだろうから、豊洲から流れ弾が飛んできた形だ。ちっちぇ流れ弾だ。
記事で指摘されているのは2010年~2012年分の収支報告書で、舛添知事がケチが原因で辞任し、政治資金と私用の費用がクローズアップされた時よりもずいぶん前の話で気の毒だなと思う面もある。また記事中には一切触れていないが、石原氏は2009年の民主党政権交代選挙で落選しており*1、文春の記事は浪人中の話である。
浪人中であることを加味すると「カネに困ってたから政治資金からだしてたのか」ととるのか「議員でもないただの人なのに文春はこんなことを書くのか」ととるのかは微妙なところだが、まあケチなのは間違いない。
(参考)
『週刊文春』3月30日号「春の夜の夢/石原宏高「スタバでひとり朝食」も政治資金の金銭感覚」
*1:2012年12月の総選挙で返り咲き