自民党 比例73歳定年制の撤廃で何が変わるのか
昨年、自民党人事で二階幹事長に変わってから、73歳以上の衆院候補は比例重複を認めないとしている現行制度を撤廃しようという動きがある。いままで老人になると比例復活の制度が使えなかったけど、これからは一億層活躍社会だから高齢議員も比例復活をOKにしよう、という論法だ。もちろん若手は反対している。党内で議論をするたびにマスコミに「居座る老人議員と反発する若手」という世代間対立の構図で報道されている。
でも、冷静になって、この73歳で比例定年制を撤廃するからといって何か変わるのかを考察してみると、じつはあまり変わらない。73歳で定年ではなく、「比例の定年」だから選挙区でそのまま勝てばいい話なのだ。
以下に自民党の高齢議員と選挙区の状況をまとめた。みな長年議員をやっているからさすがに強い。そもそも選挙区で負ける状況ではない(=比例重複しなくても当選する)。逆に少数であるが、現在接戦・あるいは敵方が野党統一候補になるとヤバい、といった議員は竹本直一氏(岸田派)、土屋正忠氏(無派閥)、西川公也氏(二階派)、赤枝恒雄氏(石原派)の4人くらいだということがわかる。
評価 | 議員名 | 年齢 | 当選回数 | 選挙区 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
△ | 伊吹文明 | 79歳 | 11回 | 京都1区 | 共産・穀田恵二(8期)も強い |
◎ | 二階俊博 | 78歳 | 11回 | 和歌山3区 | 無風区 |
△ | 保岡興治 | 77歳 | 13回 | 鹿児島1区 | 野党統一ならやばい |
- | 平沼赳夫 | 77歳 | 12回 | 岡山3区 | 引退 |
◎ | 麻生太郎 | 76歳 | 12回 | 福岡8区 | 無風区 |
× | 竹本直一 | 76歳 | 7回 | 大阪15区 | 維新・浦野(現職・2期)と激戦 |
○ | 衛藤征士郎 | 75歳 | 11回 | 大分2区 | 安定した戦い |
◎ | 谷川弥一 | 75歳 | 5回 | 長崎3区 | 無風区 |
◎ | 野田毅 | 75歳 | 15回 | 熊本2区 | 無風区 |
× | 土屋正忠 | 75歳 | 3回 | 東京18区 | 菅直人と激戦。野党統一ならやばい |
◎ | 園田博之 | 75歳 | 10回 | 熊本4区 | 無風区 |
◎ | 高村正彦 | 74歳 | 12回 | 山口1区 | 無風区 |
◎ | 河村建夫 | 74歳 | 9回 | 山口3区 | 無風区 |
○ | 金子一義 | 74歳 | 10回 | 岐阜4区 | 安定した戦い |
× | 西川公也 | 74歳 | 6回 | 栃木2区 | 直近で福田昭夫(民進・4期)に負け、比例復活 |
△ | 江崎鉄磨 | 73歳 | 6回 | 愛知10区 | 野党統一ならやばい |
◎ | 額賀福志郎 | 73歳 | 11回 | 茨城2区 | 無風区 |
○ | 奥野信亮 | 72歳 | 4回 | 奈良3区 | 安定した戦い |
× | 赤枝恒雄 | 72歳 | 2回 | 比例東京 | 比例名簿28位(最下位での当選) |
◎ | 細田博之 | 72歳 | 9回 | 島根1区 | 無風区 |
○ | 丹羽雄哉 | 72歳 | 12回 | 茨城6区 | 安定した戦い |
○ | 原田義昭 | 72歳 | 7回 | 福岡5区 | 安定した戦い |
なお前回選挙で比例復活した上記表内の議員は西川公也氏のみ。
凡例
◎…無風区
○…直近2回の選挙で50%以上の得票
△…得票率50%以下だが現状の構図では勝てる見込みが高い。選挙区事情的に野党統一候補の調整も難しそう
×…過去二回の自民党大順風の選挙で接戦、あるいは負けている
谷垣グループも分裂→一部が麻生派へ
政治の世界は本当に何が起こるかわからない。谷垣グループ(有隣会)は小所帯(衆12人・参1人・ほか掛け持ち複数名)ながら、会長の谷垣禎一衆議院議員(さだかず、12期・京都5区)が幹事長という要職にあり、谷垣氏に対しての忠誠心、というよりも同志としての想いの強い仲間たちが集まっているグループであった*1。派閥の構成議員も選挙も強いベテランぞろい*2で、結束の強い派閥であったようにおもう。
それが昨年7月に自転車事故で谷垣氏が入院生活を余儀なくされると、8月の党人事・内閣改造ではそれまでグループの幹事長、2大臣であったポスト枠が1大臣に減り、副大臣・政務官はゼロという処遇をうけた*3。ボスの復帰の目途が立たない中、今年に入って麻生派との合流に向けて意見交換をするなどの動きが出てきた*4。
それが今日の産経新聞では分裂し、佐藤勉衆議院議員(7期・栃木4区)、棚橋泰文衆議院議員(7期・岐阜2区)ら数名が脱会して麻生派に合流することが決定的になったという。
麻生派の大宏池会構想が着々と進んでいる。谷垣氏の自転車事故がなければありえなかった話だろう。政界は一寸先は全く見えない。これは逆にも言えることで今拡大路線を突っ走っている二階派・麻生派もボスの健康状態によってあっという間に状況が変わることを意味している。
結局のところ茂木敏充政調会長はポスト安倍になれるのか
最近、茂木敏充 自民党政調会長(衆8期・栃木5区、額賀派)が悪目立ちをしている。
茂木氏といえば、マッキンゼーから政界入りした切れ者で、経産大臣、党選挙対策委員長、政調会長と要職をこなし、キャリアから言えば将来の総理候補といえる。しかし、秘書の入退職が永田町で1,2を争うほど激しい、記者を怒鳴る・すぐ出禁にする、仕事が「非常に細かく」役人泣かせ、という"悪評"がかねてよりあった。仕事はできるが人柄がちょっと・・・という人らしい。
1月19日の産経に茂木氏を少し批判的に書いた?ともとれる記事*1が載っており、こんなことしてこの記者大丈夫かなと思ったが、なんと1月19日は茂木氏は訪米中で日本にいなかったのだ。記事も内容のほとんどは茂木氏の実績をたたえて、ほんの少し周囲の評判を書いている(「慕う仲間が少ない」(ベテラン議員)「自分でちょこちょこ動くタイプで首相の器じゃない」(同)「茂木会長になれば派閥を脱退する人が出る」(中堅議員))。きっと読者に伝えたかったのはこっちの評判の方で、だけどそのままかくとアレだから、かなり遠慮して書いたらこんな記事になったんだろうなと思って笑ってしまった。しかも本人が訪米中に掲載。よっぽど茂木氏が怖かったんだろうなぁ。
茂木氏への周囲の評価に関する記事が目立ち始めたのが昨年秋の党の人事で選挙対策委員長から政調会長になってからだ。同年10月に共同通信が額賀派の額賀福志郎会長(11期・茨城2区)が竹下亘衆議院議員(6期・島根2区)に派閥を譲る意向だと報道し、即座にそれを額賀氏が否定した。この一連の背景には派閥の実質オーナーである青木幹雄元参議院議員が額賀氏を良く思っておらず竹下氏に会長移譲を迫り、一方で会長の座を守りたい額賀氏と、次の会長の座を狙う茂木氏が組んだとされた。この額賀派お家騒動以来、茂木氏の評判についての記事が増えたように感じている。週刊新潮の11月10日号*2には茂木氏を快く思わない青木幹雄氏が「徳の足りない人」と茂木氏をディスしている。
額賀派のお家騒動が明るみに出ると、茂木氏は二階俊博幹事長(11期・和歌山3区)に近づく。二階氏は自らの派閥を拡張すべく、無所属議員を自民党会派に入会させていたが、茂木氏は二階氏へのゴマすりのために茂木氏が所管する政調会部会へ彼らの出席を認めたという*3。
ところが、2017年2月に入るとポロっと記者に話した(それとも意図があっておこなったのか)二階に対する「老人特有の症状が出ている」発言が週刊文春*4に載ると、翌週には二階氏側近の林幹雄衆議院議員(はやしもとお、8期・千葉10区、二階派)がこの記事の出所が茂木氏だと暴露。それが週刊新潮に載る。さらに『選択』3月号*5では一歩進めて、先日記事にも書いた化学総連の自民支持表明を、二階幹事長ではなく、茂木政調会長と面会して表明したことも確執になっていると報じている。また、二階幹事長が青木幹雄氏の意向をくみ取って、竹下亘氏を要職につけたことも茂木氏にとって気に食わないらしい。
額賀派内でモメて、派閥外では二階幹事長と確執が明らかになった茂木氏は八方ふさがりのように思えるが、敵の敵は味方の原理を想像するに、次は二階氏と激しい主導権争いをしている菅義偉官房長官(7期・神奈川2区・無派閥)あたりと組んで状況を打開するかもしれない。いずれにせよ茂木氏はやすやすと潰されるほどのタマではないことは確かだ。
*1:
【政界徒然草】官僚に「最も怖い政治家」と恐れられる自民・茂木敏充政調会長 “ポスト安倍”に名前が挙がってこないのはなぜ?(3/4ページ) - 産経ニュース
*2:「青木幹雄」が額賀派の跡継ぎにしたくない「徳の足りない」あの政治家」
*3:『選択』2017年2月号「安倍に「3期目」やる気なし」
*4:
77歳〈二階俊博幹事長〉「老人特有の症状」にざわめく自民党:週刊文春デジタル:週刊文春デジタル(週刊文春デジタル) - ニコニコチャンネル:社会・言論
安倍総理は森友学園追及を逃げ切れるか2
森友学園関連の疑惑のヤマは「政治家の関与」の有無であって、思想教育や安倍昭恵夫人に話を広げると、論点が伸びきって追及は頓挫すると先日指摘したが、昨日、そのヤマの「政治家の関与」について大きな動きがあった。
共産党の小池晃参議院議員(3期・全国比例)が「自民党議員の事務所」と森友学園・籠池理事長との面談記録を予算委員会で示すと、即日、自民党の鴻池祥肇 参議院議員(こうのいけよしただ、衆2、参4・兵庫県選挙区)が会見をした。いわく、籠池理事長から土地取得の便宜を依頼されたが、拒否したと。
共産党の国会質問から、即日鴻池議員が会見をするという流れは責任追及を深めたい野党にとっては1ポイントゲットというところだろう。鴻池議員に何回も陳情していたのだから、ほかの議員にも働きかけていただろうと想像するのが普通だ。
さて今日発売の週刊文春(3月9日号)に「安倍晋三記念小学校“口利き”したのは私です」という記事がでている。(ウェブ版のリンクは↓)
政権としては、この記事で森友学園については終わらせたかったに違いない。記事は故鳩山邦夫事務所の参与として活動していた人物が、実名で近畿財務局の担当者と面談をして口利きしましたという内容だ。しかし、鳩山邦夫氏は故人であることや、肝心の口利き部分の告白も「手ぶらで出向き、パンフレットなどを見せることもしませんでした。『私の息子も通わせるつもりだ』と言えば、信用を得るのは十分でしょう」と口利きしたのか口利きしてないのかわからないような内容になっている。つまり、誰も傷つかないような記事で、見方によっては故人に責任を押し付けて問題終結を図ろうとした政権側の提灯記事にも読める。死人に口なし。もし昨日の小池議員の質問・鴻池議員の会見がなければ、新たな事実として大きく取り上げられただろう。それを防いで、自民党議員との接触があったと証明した野党はやはり一歩先んじたといえる。
そんな大きく動いた一日であったが、一夜明けた今日の予算委員会ではややこう着状態か。きょうも小池議員は質問で追及したが、昨日に続いて答弁に立った財務省の佐川宣寿理財局長(さがわのぶひさ、東大経・57年入省)は顔色一つ変えずに、のらりくらり答えて逃げ切った。衆の予算委員会で質問に対して立ち往生していた大臣と比べると、この理財局長のタマはすごい。さすがの大蔵官僚だわ。食えない。
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